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今回の旅の目的の一つが、鉄道に乗る事です。鉄道や道路といった社会インフラは美術品のように日本に持ってくる事はできません。現地に行って体験するしか方法はありません(日程に余裕があればドイツでアウトバーンの運転もしたかった)。今回乗った鉄道は、パリの地下鉄、国際高速列車タリス、ブリュッセルの地下鉄です。両都市の地下鉄は普段の足なわけで、そこでパチパチ写真を撮るような無粋な真似はちょっとアレなので、画像が少ないのは勘弁してください。それぞれの概要とか切符の買い方Wikipedeiaやいろんな旅行記に譲って、私なりに印象に残った事を書いて行きたいと思います。

パリの地下鉄(メトロ)

パリの地下鉄はパリの街をくまなく走っています。感覚的には東京都心部の地下鉄の倍くらいの密度、どこでも銀座から神田にかけてくらいの集中度と言えばイメージし易いでしょうか。駅間も短く、一駅だけ乗る人はまずいないでしょうし、二駅でも微妙です。駅というよりバス停みたいなイメージです。
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駅は大体こんなイメージで、天井も低く、東京でいえば丸ノ内線の駅に近いかもしれません。エスカレーターやエレベーター等のバリアフリー設備はまず無いと言って良いです。パリ北駅等大きなターミナルに接続している駅だけではないでしょうか。そのせいか、パリの市内では車イスの人を見かけませんでした。そのかわり多いのが杖をついた人です。
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設備的には概ね東京の地下鉄よりも古さを感じますが、順次リニューアルは進んでいるらしく、ホームドアのある駅や、車内の路線図に「今どこを走っているか」がLEDで表示されるような車両もありました。ちなみに「海外には車内吊り広告は無い」とよく言われますが、パリの地下鉄には1両に1枚だけ車内吊り広告がありました。確かルノーの広告だったと思いますが、なにせ1枚なので注目度はえらく高そうです。
駅のサイン計画は簡潔でわかり易いですし、他路線からの乗り入れが無いので、次の事を頭にいれておけば迷う事無く目的の駅に着けるでしょう。
・目的の駅と乗換駅の名前
・何線に乗るか
・乗る方面の終着駅は何駅か(終着駅は似ている駅名が多いの注意)

ちなみにメトロの他に、RERという郊外からの列車が地下にもぐってパリ市内に乗り入れる鉄道路線があるのですが、今回は使いませんでした。都心部の移動だけなら使う必要が無かったのと、治安が悪い(パリで「郊外」という言葉を使うと「治安が悪い場末」というニュアンスがあるそう)らしいので。ただ一つ気になったのはオルセー美術館の前にあるRERの駅に続く階段から、「地下鉄の匂い」が立ちこめていた事。銀座線や丸の内線独特のあの匂いです。どうしてパリと東京で同じ匂いがするのか?とても気になります。

パリの地下鉄にはスリ等が多いと言われます。確かに他に席が空いているのにわざわざ私たちの隣に座る年配の女性がいたりしました。私たちは荷物は背中側に回さず、ファスナーは安全ピンでとめる等していたので被害には遭いませんでしたが、その一方で地元の人はメッセンジャーバッグを背中側に回したまま平気な顔で乗っていたりしました。考えてみれば、東京だって「スリ、置き引きに注意」と掲示されてますが、我々は日頃ハリネズミのように戦々恐々としなくても被害に遭う事は無いですよね。たぶん地元だと無意識のうちに「気をつけるツボ」みたいなものを感じとってスキのない行動をしているんだと思います。スリも商売ですから「ツボ」を心得ない観光客とかを狙っているのかもしれません。


国際高速列車「タリス」でパリからブリュッセルへ

タリスはフランス、ベルギー、オランダ、ドイツを結ぶ高速鉄道で、フランスのTGVがベースです。鉄道で国境を越える、さらに「シェンゲン協定」を結んでいる国どうしなら税関もパスポートコントロールもないので、まるで東京から大阪にいくような感覚で外国にいけるという日本ではあり得ない体験ができます。

パリからは「パリ北駅」(直訳すると「北駅」)。日本とは違い「改札口」はなく、したがってコンコースとホームには境界がなく(シェンゲン協定に入っていないイギリス行きのユーロスーターは除く。下の画像でもユーロスーターの手前にはガラスのフェンスがある)、それだけでも異国情緒がありますねえ。
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コンコースには空港のような発着案内板があるのも国際鉄道駅らしい。それにしてもすげー字が小さい。近眼の多い日本ではあり得ない!
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日本ではみられない車両に目を奪われつつ、ホームにある「改札機」でチケットに打刻して(コレを忘れると大変な事になるらしい。ただし、ブリュッセル側には無かった)車内へ。
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車体と同じようにインテリアもテーマカラーは「赤」。これだけ赤を使いながらシックにまとめるのは欧州ならではですね。日本だと公共物ではまず選ばない色です(たいてい派手か下品になるので)。シートは4列。車両中央で向かい合わせになっており、回転はしません。ちょうど旧型の成田エクスプレス(253系電車)と同じレイアウト。
シートピッチは新幹線よりやや狭い感じがしました。新幹線と在来特急の中間位の車体幅で4列シートなので、新幹線のグリーン車ほど幅方向でゆったりしている訳ではありませんがシート自体は大振りでしっかりしていて、座り心地は良好。
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イメージとしては、新幹線のグリーン車の座席をちょっと小さくして、在来特急の車体にぎゅっと詰め込んだ感じでしょうか。日本の鉄道車両とは「快適」の定義がちょっと違うかもしれません。


列車が走り出すと、パリの都心部、郊外を抜けてあっというまに田園地帯に。東京と比較すると、日本の首都圏の大きさを実感しますね。
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タリスはいわゆる電車(客車もモーターで駆動している)ではなく、前後の電気機関車+客車なので、やはり静かです。揺れもN700には一歩及ばずですが、他の新幹線車両よりはずっと良いですね。
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全ての席にコンセントとゴミ箱があるのは素晴らしい。ただしゴミ箱の中身はそのままですが。

列車は快適にフランス=ベルギー国境へ向かっていましたが、田園地帯のど真ん中で停車しました。しばらくすると車内アナウンス。貧弱なヒアリング能力で推測すると「他線から入ってくる先行列車が遅れているので待っている」ようです。これは欧州の鉄道事情を象徴する事態です。

日本の鉄道は細長い国土を縦貫する幹線とそれに接続する支線で成り立っており、そこには明確な主従関係があって、その間の乗り入れもあまりありません。それに対して欧州は広い大陸を主従の無い幹線どうしが乗り入れ合う「ネットワーク」なのです。つまり、一部の遅れが全体に影響し易いと言えます。

また、日本の場合は、路線どうしの接続には駅がある事が多いです。そうすると例えば、東京行きの「つばさ」が遅れた場合、それに連結する「やまびこ」は福島駅で足止めになりますが、それでも仙台から福島までのお客さんは定時に到着できたことになります。しかし今回のような駅ではないポイントだけ(信号扱所)だとどうにもなりません。

こういった国土や地形による事情の違いをさておいて「日本の鉄道は正確だ」と胸を張るのはちょっと違うかなあと、フランスの田園風景を見ながら思いました。

定刻から30分ほどおくれて「ブリュッセル南駅」(ここも直訳すると「南駅」)に到着。治安が悪い駅との情報だったので、どんな汚い駅かと思ったら、そんなことは無かったです。やはり改札はなく、そのまま地下鉄へのりかえてブリュッセル市内へ。
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地下1Fがいろいろな売店やお店、発券窓口のあるコンコースで、さらにその下には地下鉄のホームがあり、地上にはこの駅とまりの列車のホームと、そのまま北へ向かう列車のホームがあります。ちょうど上野駅を南北にひっくり返したような駅です。元々はそのまま北へ向かう路線は無く、終着駅だったそうなので、そういう意味でも上野駅に似ています。
正直あまり治安は良くないらしく、カフェで休憩していたら浮浪者のオジさんがお金をせびってきたり、私たちがどこに移動しても、そしらぬ顔ですこし距離をおいて付いてくる女性がいたりしました。この駅から列車に乗車する時には、列車のドアごとに配備されている駅員にチケットを見せてから乗車するのですが、これはチケットを持たない置き引き犯が車内に入るのを防ぐためだそうです(列車にのりこんで油断したところを狙う。発車間際に荷物を盗んで列車から降りる、という手口)。確かにこれから列車が出発するホームなのに、列車にのるわけでもなくずっと突っ立っている男がいましたね。洋の東西を問わず、ターミナル駅は物騒なようです。


ブリュッセルの地下鉄(メトロ、プレメトロ)
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ブリュッセルの地下鉄は元々地下鉄として開業した「メトロ」と、路面電車を地下化した(もしくは地下化をすすめている)「プレメトロ」に分かれていて、車両の違い(プレメトロは路面電車の車両)による扉の開閉操作等が違うだけで、地下区間であればその違いを意識せず利用できます(切符も共通)。路線の数もパリよりずっと少ないですが、ブッリュッセルの街がそんなに大きくないので不便ではありません。以前も書きましたが、乗っている人はアフリカ系や中東系の移民の人が多いのでパリから来るとちょっと面食らいます。
駅のサイン類はややモダンなデザインで、こんな路線図+列車の運行表示もあるのでパリよりもさらに分かり易いです。
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「2号線と6号線の電車がそれぞれあと3分と4分で到着予定で、そのどちらもSimonis Elisabeth行き」という事が分かります。
同じような表示は東京の地下鉄と同じように車両のドアの上にもあるのですが、東京のように、進行方向にあわせて左右反転していないので要注意です。彼らにはその方が分かり易いのだろうか?


今回念願の「欧州を鉄道で旅する」「欧州の街を鉄道で歩き回る」を体験できました。やはりその都市や国の歴史や文化の違いが鉄道や駅に現れていて、こればっかりは行ってみないと分からないですね。東京の交通網や日本の新幹線と比較してその違いの背景をいろいろと考察するのも楽しい。やはり都市は面白いですね。
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