ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)
ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)
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ウィリアム・ギブスンの「ニューロマンサー」を読み終わりました。

正直すごく読みづらかった…まず単純に文字が小さい(笑)。作品世界でのみ通じる用語が唐突に(これ自体はSFではよくある話)それも大量に出てきて、かつ情景の描写にもかかわらず抽象的な言葉や観念的な言葉が沢山使われていて、自分の頭の中でイメージを構築するのが大変でした。
電脳空間と現実世界さらに他の視点の現実世界…と場面展開もスピーディーでストーリーも入り組んでいるので非常に疲れます。

仕事柄、頭の中でイメージを形づくる事は得意な私でも読み進めるのはかなり難渋でしたので、そうでない方は「さっぱりわからん」人もいるかもしれません。正直私も2回読んでやっとストーリーが理解できたくらいで、主題まで読み取れませんでした。いやひょっとしたら、ストーリーや内容ではなく、文章から想起されるスピード感や猥雑な都市のイメージ、電脳空間に浸る恍惚感などのきたるべき未来を先行体験することがこの小説の主題なのかもしれません。

なにより驚くのはこの小説が1984年の作品だと言う事です。確かに既にパソコンはある程度普及していたものの、アメリカでもパソコン通信はまだ始まって数年という時代です。ネットワークに接続したコンピュータを操るという体験があまり一般的でない時代に、その高揚感を描き出したのが凄い。むしろ現代のネットワーク社会がこの小説を模倣しているかのようです。さらにアメリカから数年分は遅れた状況の日本で、この作品の醍醐味を理解できた翻訳家はもっと凄いと思います。

ところで、この小説を読んでいて不思議な体験をしました。読み進めるうちに眠気を覚え、うとうとしてくると、文章を読んでイメージしているのか、夢を見ているのか判らなくなるのです。こんな体験をもたらすポテンシャルこそ、この小説のオリジナリティかもしれません。

コンピューターの中に人間が入り込む、というのはこの作品が初めてではない(映画TORONなど)し、アジア的に猥雑で退廃的な都市のイメージも映画「ブレードランナー」などが先行しています。
設定やイメージに先行例があっても、作品を通して得られる体験が新しければ、それはオリジナルと言えるという事を示してくれた小説だと思います。
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