国立近代美術館工芸館
国立近代美術館と併設の工芸館で開催されている、「揺らぐ近代 日本画と洋画のはざまに」と「ジュエリーの今:変貌のオブジェ」展をみてきました。
「揺らぐ近代〜」は、明治以降、岩絵の具と墨で描いていた日本画の世界に西洋絵画が入ってきて、初めのうちは混沌としたり、その後「日本画」と「洋画」というジャンル分けが確立されたり、その上で互いに影響し合ったり…という歴史的な流れを作品を通じて解き明かす、という趣旨です。
「日本画」と「洋画」というと、画材によって分類されると私も考えていたのですが、使う画材だけではなく、その画材を使うテクニックや表現方法、さらには主題の選び方、選んだ主題の捉え方、といった要素それぞれに「日本的」と「西洋的」なものがあって、その組み合わせは多様(2の4乗で16通り?)なわけで、単純に分類できる物ではないんだなあ、と感じました。また、ジャポニスムの影響をうけた印象派が一周回って今度は日本画に影響を与えていたりしているのも興味深いですね。今回私の印象に残った作品は…
・川村清雄の「瀑布(滝)」
 絹布の上に絵の具をしっかり盛り上げ、油彩らしいテクスチャー豊富なタッチで滝が描かれているのですが、水の流れや岩のボリューム感、木々の枝振りの捉え方はとても水墨画的。自然への畏敬あふれる東洋的な眼差しが洋画らしいダイナミズムで描かれていて、私も妻も「これ良いねえ」と唸った絵です。
・明治初期の一連の作品。
 洋画の画材やテクニックという新しいアイテムに貪欲に取り組んでいるものの、やはり「こなれていない」感じがなんともキッチュで面白いです。なぜか小松崎茂に代表される昭和の少年誌の挿絵や絵物語を連想させるのが不思議。
・近藤浩一路の「水田」
 水田の水面に映り込んだ遠景の山並みとそれに切り取られた空が描かれた水墨画ですが、墨を塗らない「紙の白さ」で描かれた「映り込んだ空」の眩しさが非常に印象的でした。白の絵の具がない水墨画でここまで明示的に「光」を描いたというのはやはり印象派の影響なんでしょうか。

「ジュエリーの今〜」の方は「変貌のオブジェ」とあるように、現実的に身につけるものというよりは、装飾品をテーマにしたオブジェといった作品が多かったです。意外だったのは金属板の切断と折り曲げという限られた加工法から生まれる数理的なフォルムのものが多かったことです。そういった意味では直接仕事に役立つのはこちらだったかも知れないですね。

最後にちょっと苦言を。双方とも展示方法に配慮が欠けていたのが残念でした。
「揺らぐ近代〜」のほうは照明が良くなかったです。絵の表面に照明が反射してしまい本来の色彩やタッチがわかりにくかったり、ショーケースに映り込んだ自分の姿が邪魔で中の作品がよく見えないことが多かったです。「ジュエリーの今〜」では装飾品と言う身につけることを前提とした作品であるにもかかわらず、人形やトルソーに掛けられているのはごく少数で、実際身につけた時の姿が伝わってこなかったり、さらには「どうやって身につけるのかも解らない」場合もあり、出展した作家が気の毒になってきました。展示内容自体は非常に良かっただけに非常に残念です。今後改善を望みたいところです。

「揺らぐ近代〜」は12月24日までですが、17日以降は黒田清輝の「湖畔」が展示されますので、これに合わせて出かけるのがオススメかも。
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